2012-01-01から1年間の記事一覧

年の瀬

気忙しく過ぎ行く日々の中、この一年を振り返る。 生まれくる幼子に幸多かれと祈った初春 波と戯れた夏の日は焼けた肌に潮風が心地良い 秋の紅葉は赤々と有馬の山を着飾って 雪の夜には友と交わす美味い酒 こんな小さな悦がほんとの幸福 健やかなこの一年は…

真のアートへ

私は我が家で制作する商品を「工芸製品」と名付けている。 売価を意識して制作する限り製品ではあるが 工芸(=実用に芸術を加味する)に重きを置いているという 意味である。 しかし今回仕上がった作品は、 明確に芸術品だと断言できる「きもの」である。 絵師…

陶芸家 岸野 寛さん

岸野さんは若手陶芸家の旗頭の一人になると確信している。 彼の目指すものは桃山の茶陶である。 先般も日本橋 高島屋の美術サロンに於い個展を催し 大盛況であったとのことである。 彼を紹介してくれたのは、 私のところの白生地を織ってくれているS女史だが…

冬という季節

下鴨神社も降り積もる落葉に溢れ参道も厚い絨毯の上を歩くように 柔らかく感触がとても気持いい。 高野川沿いに連立する桜も すっかり葉を落とし冬の準備は出来上がっている。 この時期の樹木は来るべき春に備えて樹幹に水と養分を蓄え、 葉を落とし余分な水…

さらに平安時代の美を求めて平等院へ

唯一現存する平安建築、宇治平等院を訪ねた。 子供の頃から何度か連れていかれたり遠足だったりで 鳳凰堂の記憶はあるが、 平安時代を意識して眺める始めてのことだ。 しかし残念ながら建物は平成の大修理中で すっぽり覆いが被せられ優美な姿を拝むことはで…

辻村史朗氏の陶芸を観る

辻村史朗氏、兼ねてから高名は広く知られているが、 ご本人と直接会って話す機会を得るのは始めてである。 今や本業の焼き物以外にも 書や油絵をこなすマルチアーティストといえる。 元首相の細川護煕氏も同じく多芸を誇る政治家であるが 両者に共通するのは…

64回 正倉院展

11/12まで開催された正倉院展は相変わらずの大盛況であった。 瑠璃杯(るりのつき) 曜日によって夕方6:30までの入場が許されているので、 その頃を見計らって行ってみたが予想以上の雑踏状態であった。 何があれほどの熱狂を掻き立てるのか不思議な感想を抱…

染の引き算、一つの帰結

いわゆる友禅染の技法で難しいのは 輪郭を甘いぼかしに仕上げることである。 何でもないようだが友禅染の基本は 糊伏せ(染めたくない部分に糊を塗布する)である。 故に輪郭がどうしてもシャープになってしまう。この技法を400年も後生大事に守り続けてきたの…

平安時代の美を求めて

かねてから平安時代の染織品が皆無であることに、 失望し続けるわたしだが最近になって気が付いたのは、 和歌の料紙(台紙)の美しさだ。 平安時代に書かれた「石山切」「継色紙」など 文字に目を奪われがちだが、それらの料紙の美しさこそ 平安の美ではないか…

「露染」

この数ヶ月、 没頭し研究してきた新しい染色技法に一定のめどがつき 「露染」と名付けることとした。 この染の特徴は、 実際に霧の状態で染めるので色に透明感が出ると同時に 補色的な色を両側から染めても交わる部分に 濁りができないのが素晴らしいと自画…

大徳寺530世傳法式(視篆開堂)に臨んで。

かねて昵懇にしていただいている 泉田老師が、 大徳寺530世を襲名され、 秘伝の傳法式に参列する栄誉を得た。 (画像は産経新聞より) 式は法堂で行われたが、 改めて観ると正に中国様式(当たり前の事だが)、 天井には墨絵の雲龍、 大きな須弥壇の上には立派…

講演感想記

喉元に刺さった魚の骨のように 10/17の「和楽一日きもの塾」講演は気掛かりであったが、 昨日、日本橋三井ホールに於いて 無事に大役を果たすことができ安堵している。 企画内容はさておき、大勢のきもの愛好家がひと時の着物談義に花を咲かせたのは、楽しい…

久々の自信作「平家納経」

現在NHKで放映中の「平清盛」、 彼が厳島神社に奉納したとされる「平家納経」を きものに写してみた。 何十年も前から自分なりの解釈で染物にしたい! と思ってきたのだが、ようやく自信作が出来上がった。 このきもののポイントは、金銀泥と金箔類の装飾如…

「芹沢硑介」展を観て

芹沢といえば民藝という印象が強い。 では民藝とは?と自問すると答えに窮する。 そもそも柳宗悦が提唱した民藝運動は何を好しとするかと言えば「作為のない無邪気」さこそ最良とする。 しかしそれを「美」として認めるのは如何なものか。 作為の無い物を作…

63回目の展示会を終えて

昨年から展示会週間として7日間の開催とする 秋の展示会を無事終了した。 大変厳しい経済環境の中、 大勢の来客を得たことに感謝したい。 今回のテーマを「御所解」としたこともあって 御所解帯は根強い人気を博した。 現在一連の帯を 210,000円に設定してい…

変わらない人の好み

父の時代にも「御所解」を中心に光琳を代表とする琳派模様を 染めてきた事を記憶している。 多分、祖父の時代も同じであったろう。 私の代になって 自分なりの物作りもしてきたつもりだが「御所解」「琳派模様」を 何の抵抗もなくアレンジして採用してきた。…

Teaching is Learning

「教えることは学ぶ事」は、まことに答を得た言葉だ。 「和樂」誌から10月17日に開かれる読者対象の「きもの」にまつわる催事の中で染織史の話をして欲しいとの依頼を受けた。 歳月をかけて蒐めている 「古裂」について30分程度の時間でという。 はた!と考…

土佐光起

馴染みの美術商の店先で見つけた「土佐光起」の 秋草雉子図の掛け軸を手に入れた。 光起は元禄時代、土佐派を代表とする絵師であると同時に 歌舞伎にも主人公として登場する有名人である。 土佐派は鶉を得意とする一派で大和絵の主流とされる。 光起のファン…

アンリ ルソーの事

ルソーの絵には観る人を思わず画中に引き込む魅力がある。 ニューヨークの近代美術館には、 彼の代表作「夢」が所蔵されているが 私は「飢えたライオン」が印象に残る。 どちらも共通して ジャングルの深い緑が画面一杯に描かれている。 餓えたライオンがカ…

ウエディング スタイルの変化と「きもの」の衰退

「きもの」の主流は礼服であった。 江戸時代以来、 婚礼衣装が染織業界を牽引してきたのは事実である。 『日本風俗図誌』より 豪華な打掛は花形であり20年ほど前にも 娘の為に打掛を特注する家があった事を記憶している。 婚礼当日の衣裳や箪笥一杯に収めら…

陽の目をみた能衣装

私が織屋(齋藤織物)を始めたのは 唐織「能衣装」を作りたいと思ったのが動機の一つである。 古美術店で買い求めた桃山時代の能衣装裂、 「山道に下がり藤」柄を手本に制作してみた。 袖の部分を手本に全体を想像して能衣装を復元したのである。 完成後、 展…

「世界史」を読む

マクニール著「世界史」は、大変良く出来た歴史教科書である。 古代から現代まで人類の歴史を多元的に俯瞰させてくれる。 読んでみると文明の歴史とは、 ユーラシア大陸における覇権の歴史なのである。 著者は、 数え切れない権力の栄枯盛衰を走馬灯のように…

フェルメールを観る

「ベルリン国立美術館」展を観る。 フェルメールの「真珠の首飾りの少女」が初来日という前評判で賑わっていた。 17世紀のオランダ絵画は陰影の芸術と呼んでもいいであろう。 極端ともいえる濃い陰に対してスポットを当てたように明るい影、このドラスティッ…

「平清盛」展を観て

京都文化博物館で開催中の「平清盛」展を観に行く。 お目当ては清盛が厳島神社に奉納した「平家納経」を観るためである。 平安時代の染織品は皆無に等しく、豪華な料紙に描かれた金銀箔の装飾や顔料で彩色された絵画から平安時代のよすがを偲ぶのである。 国…

新しい染色法に挑戦中

目下新しい染色法の完成に夢中になっている。 一日の半分は自ら試行錯誤している。 狙いは「空気感」の表現である。 水墨画の世界では墨の濃淡を巧みに利用して 「空気感」を表現したものは数多く散見できる。 最も代表的な作品は長谷川等伯の「松林図」であ…

歛葬の儀」に参列して

お亡くなりになった三笠宮寛仁殿下の葬儀に参列のため 上京した。 喪主をお務めになった 彬子女王のきものを一年間作らせていただいた時からの お付き合いであるがどうしても 亡き殿下にお別れを申し上げたかったのも本心である。 朝8時の新幹線に飛び乗れ…

表具ときもの

本紙(対象となる絵や書)に相応しい 表具裂(上下、中廻し、一文字等)を工夫するのが 数寄者の楽しみとされている。 一般的に言って一級品の古美術品は、 本紙と表具が釣り合っているものだが、中には全く不似合いな ものもある。 その手のものを見つけると表…

グッチ チャリティー パーティ

東日本大震災で被災した子供達を救援する為の チャリティー オークションが有名ブランド 「グッチ」と 歌舞伎役者 「中村吉右衛門」丈との共催で華やかに開催された。 私と播磨屋さん(中村吉衛門丈)は、 30年来のご贔屓で妻と共にご招待を受けたのである。…

聚光院と三玄院

大徳寺の塔頭「聚光院」は千利休以来三千家の菩提寺である。 一際大きい利休居士の石塔を中心に歴代家元の石碑が建ち並ぶ。 その一隅に昨年若くして鬼籍に入った若い友人が眠っている。 聚光院の道を隔てた南向いは「三玄院」。 名僧、春屋宗園を開祖とする…

「心地好い」

人それぞれに心地好いと感じる理由は様々である。 私の場合は、 自然の中に身を置くだけで心地好いと感じる質である。 もっとも殆どの人も同じであろうが。 冬の雪山、夏の透明な海、春秋の高原に身を委ねる時、 最上の心地好さを感じるのだ。 日常生活にお…