偶然出会った二枚の裂
20年前になると思うが、一枚の裂を手に入れた。
茶入れの仕覆を解きほどいた慶長裂である。
不思議な構図にリアル表情の人物像の刺繍、
特に「象」の絵が気に入ったので購入した事を記憶している。
古い時代に特有の鋭い面付き、後世のものではこうはいかない。
まして現代の職人にこんな絵を書ける者を見た事がない。
もちろん手本があればうまく似せる事は出来得るであろうが、
素では書けない。
今はそういう時代なのである。
ごく最近この裂に続く裂を偶然入手した。
続きの裂であると気づいたのは、
やはり描かれていた人物の表情があまりににも上品な面立ちを見事に刺繍で表していたからだ。
この裂が又々、不思議な構図である。
切れどり風の絞りに、大小のバランスを全く無視した人物、動物、草花の刺繍が施されている。
この二枚の裂を繋ぎ合わせて全体の小袖を想像すると実に派手な小袖が見えてくる。
藍、鬱金、茜、紫の四色紙に大小の刺繍施し、
空白部分には金箔という豪華絢爛な小袖を誰が身に纏うのか
空想が膨らむ。
慶長時代とはこの様な派手な小袖を身に纏う女性が生活し、
それを違和感なく受け入れた強烈な個性が発揮された時代背景があったのか。
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