真贋の意味

先日、さる名刹長谷川等伯の墨絵を観る機会を得た。


ふすまに山水楼閣が見事な筆力で描かれていた。
しかしなんとなく臨場感に欠ける気がしたので


係りの人に


本物ですか?


と単刀直入に尋ねてみると、答えは複写であると私に告げた。


複製の襖からかなり距離を置いて結界が設けられて鑑賞者を
遠ざけようとしている一方で話を聞くと本歌は博物館に
劣化を防ぐため保管され、かわりに某電子機器メーカーに
依頼して精密な副像を制作したのだそうだ。


そういえば数年前に訪れたウィーンの美術館で油絵がすべて
レプリカであると帰国後、知らされ同じように落胆したことを
思い出した。


ただウィーンではレプリカであると表示されていたかは
不確かで彼らを疑いたくはない。


今回はポスターに小さく模造であることを示してあったが、


長谷川等伯


という大きな文字に目を奪われてしまったことが
いけなかったと自省する。


しかし本当に等伯が描いたものであってこそ観賞者と等伯
一本の糸で繋がり彼の人物像、息遣いにまで想像が及ぶので
あって、いかに精密であっても模造品を見せるべきではない。


先人の偉大な芸術を後世にどう見せるか、形あるものは必ず
風雪と共に劣化する。


しかし、いかに巧妙な模造であっても所詮「模造品」、
それを金銭を取って見せるのは精巧であればある程、
罪が深い。


精密な模造品はアーカイブとして隠し保持されるべきもので、
それを誇示するのは間違いだと思う。


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